BASE 売上金の没収(失効)に関し、BASE と和解しました #BASEec

ネットショップを開設できる Web サービス「BASE(ベイス)(BASE株式会社・代表取締役 鶴岡裕太)」において、没収されて売上金(BASE 側は請求権の失効と主張)の支払いを求め、2019/8/27、BASE に対し枚方簡易裁判所へ少額訴訟を提起し(令和元年(少コ)第23号)、東京地方裁判所に移送後争っていた訴訟裁判(令和元年(ワ)第25673号)に関して、第5回期日(2020/5/22)において、和解しました(※)。

東京地裁における裁判では、裁判官に、簡易裁判所からの移送であること・遠方であること・本人訴訟であること等を配慮してもらい、裁判中わかりやすく説明してもらったり、第1回目期日以外は電話で参加できるようにしてもらったりしました(被告代理人が東京地裁へ出頭することで成立する)。また、裁判官から和解の提案があり、原告・被告互いの条件それぞれ譲歩により和解が成立しました。

BASE から和解金が支払われ(※)、原告としては満足しています。ただし、同様のトラブルが解決したわけではありませんので、参考までに訴えた内容等を記録しておきます。また、私の場合ですが、BASE から少額訴訟をした時点では、訴えを取り下げた場合 BASE 主導により裁判外での和解をし解決金の支払いの提案があったことを付け加えておきます。

※ 投稿時点では BASE から和解金の支払いが完了していませんが、間もなく支払われると思われます。支払いをもって和解条項が成立します。追記:支払われました。

訴えのポイント

訴えは、次の2点により、売上金の支払いを求めるものでした。

  1. BASE は、売上金を請求できる期限が、無期限から1年や180日の期限付きとする利用規約の変更を行った。変更内容は、合理的に予測不可能であり、売上金の消失は利用者に影響を及ぼす程度が大きい。そのような契約の変更に対し、黙示の同意や承諾があったとすることは無効である。
  2. BASEは、利用規約の「会員が支払いを請求することができるようになった時点から180日(注:旧規約では1年)が経過し、当社が支払い請求を行うよう通知したにもかかわらず、会員からの支払いの請求がない場合、当該支払いを請求することができる権利は消滅する」の条項を根拠としている。一般的な読み方として、180日(または1年)経過後に、請求を行うよう通知をしたにもかかわらず、請求がない場合に権利が消滅するが、BASE は、期間の経過と同時に失効を通知している。期間の経過後に請求を行ったが、支払いを拒否しており、規約の内容を履行していない。

また、被告(BASE)の主張に対する反論は次の内容でした。

  1. 旧利用規約に同意したことは認めるが、提出された証拠は、原告が被告のサービスを利用開始した後に作成された画面であるため、同意が明らかである等の被告の主張は不十分である。
  2. 利用規約改定後に被告のサービスを利用したことは認めるが、旧利用規約に定められた改訂であることまたは有効な改定であるという主張は争う(後述)。
  3. 利用規約の改定に関し、画一的な取り扱いを行う必要は認めるが、改定手続きの合理性および必要性は争う。
    • 被告は、改定の手続きに関し、個別交渉等を行うことはコスト面で困難であると主張しているが、利用規約の同意(サービス利用前の明示的な同意)は、個別交渉により契約しているわけではない。同様に、改定の手続きも画一的な取り扱いにより、明示的な同意が可能である。
    • 実際に、被告は、被告のサービス利用者に対し、毎年、反社会的勢力でないことを画一的な方法で誓約させている。誓約しなければ、被告のサービスを引き続き利用できない。この反社会的勢力でないことに関する条項は、利用規約の改定で追加されている。
    • 反社会的勢力にサービスを利用されるという被告の不利益になり得ることは改めて明示的な誓約を求め、利用者に不利益なことは黙示の同意を用いた利用規約の改定を行っていることは、事業者として不誠実であり、被告の主張する必要性および合理性があるとは言えない。
  4. 利用規約の改定に対し、みなし同意が社会通念上相当な手法であるという主張は争う。
    • 本事件においては、利用者に不利益な利用規約の改定に対し、みなし同意が用いられていることの事例を示さなければ、社会通念上相当とは言えない。誤字等の軽微な修正に関し、みなし同意による利用規約の改定が行われていることは社会通念上相当であると認める。
    • 実際に、広く知れ渡ったサービスでは、利用規約の改定の際に(特に重要な改定の際に)、利用者は、明示的な同意を再度求められ、同意しなければサービスを継続利用できない。
      • iOS(Apple 社)の利用規約改定
      • Google AdSense(Google 社)の利用規約改定
      • ポケモン GO(Niantic 社)の利用規約改定
      • 白猫プロジェクト(コロプラ社)の利用規約改定
      • d アニメストア(NTT ドコモ社)の定型約款改定
    • 被告による一方的な改定の通知は、被告の主張する「十分に理解してもらった上で、被告サービスの利用を継続するか否かを判断してもらう」とする手段としては不十分である。また、被告は、本事件と同様である売上金失効のトラブルに関して、説明が不十分であったと謝罪している。
  5. 請求期限を設けること(売上金を請求できなくすること)の事情があり、利用規約改定の必要性があるという被告の主張に対しては争う。
    • 被告の主張は、出資法における資金を預かる事業者に該当し得るにも関わらず、請求期限を設けることにより、出資法が適用されない事業者へと逃れたと解釈できる。これにより、出資法における利用者保護等の制約等を遵守する必要はなくなる。これを、「適法にサービスを運営する必要があることから、法律順守の観点から」やむなく行った改定という主張は認められるものではない。
    • 被告の提出した証拠「決済に関する論点の中間的な整理について」の議論は、平成19年(2007年)12月のものであり、被告のサービスが開始した2012年11月より相当過去の議論である。被告による利用規約の改定およびその時期は、このような社会的潮流との関連性が低く、被告の主張するやむを得ない事情とは言えない。仮に関連性があるとすれば、被告の主張は、サービス開始時点から適法ではないサービスと言える。
    • 出資法および「決済に関する論点の中間的な整理について」の議論は、売上金等の利用者の財産を没収してもよいと定めたものではなく、利用者保護や利用者の資金保全に関して述べられており、請求期限を設け売上金を失効させる根拠とすること自体が誤りである。
  6. 強制振り込みの手法は取り得ないとしたBASE管理画面に関する設計仕様、および銀行口座の登録後も強制振り込みを行えず、売上金に係る権利の消滅に合理性があるという主張は争う。
    • 被告の提出した証拠のBASE管理画面は、振込先を毎回指定するサービスの設計仕様を説明したものであるが、一見すると毎回振込先の口座を入力するような設計仕様と見受けられる。しかし、実際は異なる。一度振り込みが行われた場合、次からは登録済みの銀行口座に対して、振り込みを行う設計仕様である。振込先の銀行口座を変更する場合には、本人確認の手続きを要し手間がかかる。また、一度登録した銀行口座は削除できない(そのような画面は存在しない)。銀行口座を変更できることは一般的なサービスとして当然の設計仕様である。被告のサービスは、振込先を毎回変更することはできなくないものの、被告の主張する「支払いを受けられる口座を指定できるようにして柔軟に売上げの受領をすることができるようにする方が、ユーザービリティが高いサービスとなる」という、いかにも特徴的であるかのような説明は誤りであり、登録済みの銀行口座に振り込むことを想定した設計仕様である。よって、この設計仕様を根拠として登録済み銀行口座へ強制的に振り込む方法は取り得ないという主張は認められない。
    • 登録済みの銀行口座に強制的に振り込む方法に関して、現在受領用に用いていない口座へ振り込んでしまった場合にトラブルが生じる可能性があるため、権利を消滅させる判断に合理性があるとの主張だが、登録済みの銀行口座が現在受領用に使用しているか否かに関わらず、売上金が振り込まれることは、売上金が失効することと比べれば、利用者の不利益になり得ない。よって、売上金が振り込まれる方がトラブルになる可能性も低いと考える方が自然である。実際に、売上金失効によるトラブルが発生している(Twitter の投稿および、ネットショップ作成サービス「BASE」の売上金の取り扱いに関して | BASE, Inc.「売上金14万円を没収されてしまいました」 ショップ作成サービス「BASE」、“売上金失効”問題で謝罪、今後は改善を検討 - ねとらぼ)。よって、被告の主張する合理的な理由は存在しない。
  7. 売上金の失効に係るまで、相当な手続きが取られていたという主張は争う。
    • 「売上金に係る権利が消滅していたことにならないよう被告としても最大限配慮し」とあるが、本事件と同等の売上金失効に係るトラブルにおいて、説明が不十分であったと被告は謝罪している。
    • 「権利の消滅の手続きとしては社会通念上極めて相当な手続きが取られている」とあるが、被告は本事件で争点となっている利用規約の条項の追加および一方的な通知を行った事実を説明しているのみで、他の事例等を示さなければ社会通念上極めて相当とは言えない。また、証拠において、被告の例示したメルカリは、被告のサービスと同様に、売上金の請求期限および みなし同意に関する条項があるが、請求期限の過ぎた売上金は利用者の銀行口座へ振り込まれ、銀行口座の登録がなく売上金が失効した場合も配慮されている。このように事業者は利用者に対し救済措置を行うことの方が、当然ながら不法性は存在せず、社会一般の常識に適っている。
  8. 小括
    • 以上より、被告の主張する①利用規約の改定手続きの方法の合理性・必要性②利用規約の改定に対しみなし同意が社会通念上相当な手法であること③売上金の請求期限を設けるに至った経緯がやむを得ない事情であること④売上金に係る権利を消滅させることの合理性⑤売上金の失効に係るまでの手続きの相当性を否定し、黙示の同意が認められるような改定ではない。よって、売上金を請求する。
  9. 新利用規約の売上金に係る権利の消滅要件について、条項の解釈に関して争う。
    • 当該条項: 新利用規約第6条13項は、「会員が支払いを請求することができるようになった時点から 1 年が経過し、当社が支払い請求を行うよう通知したにもかかわらず、会員からの支払いの請求がない場合、当該支払いを請求することができる権利は消滅するものとします。」と規定している。
    • 被告の主張: 「①会員が支払いを請求することができるようになった時点から 1 年が経過すること」と、「②被告が支払い請求を行うよう通知したにもかかわらず、会員からの支払いの請求がないこと」のいずれも満たした場合に、本件消滅が生じると主張している。
    1. ②の通知が①の期間経過後になされないと解釈する理由として、「被告からの通知後どの時点をもって売上金に係る権利が消滅するのか不明確となるため、規定の解釈として不合理」と被告は主張しているが、利用者の立場から解釈すると、①の期間経過後、被告から通知がない限り、売上金は失効しない猶予期間であり利用者保護の手続きである。被告の主張する不明瞭点から不合理であると判断は難しく、②の通知が①の期間後になされることを否定するものではない。
    2. ②の通知が①の期間経過後になされると解釈できることを被告は否定していない。被告の主張する不合理性を判断する必要がある場合、著しく明確性に欠く規定であり、消費者契約法 3 条 1 項に反する。複数の解釈の可能性が認められる場合おいて、被告は当該条項を自己に有利な解釈で運用しており、被告の主張は認められるものではない。
    3. ②の通知は、①の期間経過の前に行うとは明示されておらず、誰もが、被告の主張通りに解釈できるものではない。よって、①と②を並列的な要件と解釈できることを肯定するものではない。被告による、①の期限前に通知を行っている実際の運用に関しても、並列的な要件と解釈できることを肯定するものではない。
  10. 裁判所からの求釈明のため、被告が提出したBASEにおける決済の仕組みに関して、釈明では不十分である。
    • 被告のサービスにおいて決済手段は、ソニーペイメントサービス株式会社によるクレジットカード決済のみではない。また、ソニーペイメントサービス株式会社以外の事業者も利用している(BASE 新利用規約 第10条4項、5項)。
  11. 預り金の該当性について、被告は、原告は被告に対し売上金を「預けて」いたわけではないと主張しているが、その説明がなされていない。
    • 被告が提出した証拠の「決済に関する論点の中間的な整理について(座長メモ)」「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ(第2回)議事録」「フリマ(フリーマーケット)アプリ売上金・ポイントは法的に保護されるか」等の議論は預り金を否定するものではない。「フリマ(フリーマーケット)アプリ売上金・ポイントは法的に保護されるか」においては「出品者の売上金を預かることができる」とある。
      また、預り金の該当性に関する議論の有無に関わらず、被告は、商法および会社法の義務として、会計帳簿に預り金等何かしらの勘定科目で記帳しているはずであるが、被告が勘定科目を明言せず、出資法の議論等の説明に留めていることは不自然であり、否定するには説明不十分である。

裁判の記録

  • 2019/8/27: BASE に対し枚方簡易裁判所へ少額訴訟を提起(令和元年(少コ)第23号)
  • 2019/9/2: 令和元年(少コ)第23号 東京地方裁判所に移送の決定
  • 2019/10: 東京地方裁判所に移送。事件番号の変更(令和元年(ワ)第25673号)
  • 2019/11/14: 第1回期日
    • 訴状の提出
  • 2020/1/10: 第2回期日
    • 被告より準備書面1(訴状の反論)の提出
    • 裁判官が被告に、BASEサービスの概要、売上金および失効後の売上金の扱いに関する説明資料の提出を求める
  • 2020/2/14: 第3回期日
    • 被告より準備書面2(裁判所からの求釈明: BASEサービス概要、決済の仕組み、預り金該当性の議論の状況)の提出
    • 裁判官から双方に和解の提案。原告: 売上金名目での支払いを求める。被告: 解決金の名目で支払う、口外禁止、本件に限らず双方に債権債務がないことを求める。
    • 裁判官から被告に、失効した売上金の扱いの説明資料の提出を求める
    • 裁判官から原告に、反論書面の提出を求める
  • 2020/3/27 11:30: 第4回期日
    • 原告から 準備書面1 を提出。甲号証・準備書面1証拠説明書 は保留。
    • 被告から準備書面3(裁判所からの求釈明: 失効した売上金の取り扱い(勘定科目)について)を提出
    • 裁判官から双方に和解の提案
    • 原告は、和解条件について譲歩。被告代理人は被告へ和解条件について譲歩可能か否かを次回期日までに確認する。
  • 2020/4/17 10:00: 第5回(和解の交渉)
    • 延期
  • 2020/5/22 11:30: 第5回
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